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22話 イレギュラーな希望

作者: ニゲル
last update 最終更新日: 2025-04-30 06:08:55

「なるほど……イカのイクテュスに喧嘩する二人のキュアヒーロー……いやぁ興味深いね」

あの日帰ってから私達は倒れる様に寝ていつもより少し遅い時間に目を覚ます。そしてイクテュスと戦ったことを健さんに報告し、家まで来てもらってあったことを話しそれを記録してもらっていた。

「何が興味深いだ。二人の険悪さは深刻な問題なんだぞ」

キュアリンもこの場に呼んであり、私達が戦うより前の事も彼に話してもらう。

「大体情報はまとまったよ。つまりあのイカのイクテュスは小学生くらいの男の子が好物だというわけだ。動物には個体によって食事の好みがあるみたいにね。それにイクテュスになって異常を体にきたしたとすれば人間を襲うようになるのにも納得がいく」

健さんは難しそうな本を見つつもノートに私が知らないような漢字や単語を書いていく。

「ねぇ波風ちゃん……もしかして朋花ちゃんの弟も……」

「あっ……だとしたら……」

捕食された。そんな最悪な結末が容易に想像できてしまい、それが現実になった場合の彼女の反応をイメージし心を痛める。

「いやまだ希望はある。キュアリン。奴が出没した地域で血痕が残っていたりはしたかい?」

「俺が見た範囲ではないな」

「路上で捕食したなら騒ぎになるレベルの血痕が見つかっていないとおかしい。なら奴はどうしたのか……どこかに連れ去った可能性が高い」

「連れ去ったって……どこに?」

「そこまでは流石に。でもまだ死に至っていない可能性もある。正直可能性は半々だけどね」

それならまだ希望が持てる。だが肝心のイクテュスの居場所が分からない。いつもどうやって見つけているのか分からないがキュアリンもお手上げのようだ。

「いや待てよ……その年齢の男の子を襲うなら……もしかしたら連れ去られた場所が特定できるかもしれない」

「本当!? どうやって!?」

私は一筋の光にしがみつくようにキュアリンとの距離をドタドタと詰める。

「そ、それは言えない……ただ奴が対象を連れ去る習性があるならほぼ確実に行方不明の子は見つかる」

「また言えないの? そういえばキュアリン達っていっつもどうやってイクテュスの場所を特定してるの? SNSとかニュースよりも早いし」

「それは秘密なんだ。お前らには現段階では教えられない。ただ何も人間に迷惑をかけるようなことはしていない
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